”破壊が無ければ再生は無い 生命の循環の永遠の形 真実の種から産まれた木”

MorningParkには大きな樹が生えていて、世界中の色とりどりの美しい花が咲き、あらゆる果物の実がなります。

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それはこの木を育む栄養になって、実をつけ、花を咲かせ、ここを訪れた旅人を癒します。

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WHITE HEART外伝 「小さな時の連なりに」 レク・ムーア 02/6/26(水) 0:41

WHITE HEART外伝 「小さな時の連なりに」
 レク・ムーア E-MAILWEB  - 02/6/26(水) 0:41 -
「お〜い、キャルー!」
「あ、栄吾君!」
「ごめんごめん、ちょっと遅かったかな?」
「あははは、まだ約束の時間まで1時間あるよ?」
「え?あ、ほんとだ。あ、あははは」
 今日は、彼との初デート・・・。
 先日の戦いで傷ついた栄吾君の回復祝いってことで、ラームちゃんが提案してくれた。 その時も栄吾君に助けられたから・・・。
 そして・・・、栄吾君は覚えていない・・・はずだけど、私はちゃんと覚えている。
 あれは私がもっと小さかった頃。
『ママ・・・。まま・・・』
 それは、私が一人になった時・・・、私は栄吾君と出会い、そして助けられた。

 そのころ、私はお父さんの顔を知らなかった。ママさえいてくれれば、それでよかった。でも、そのママがいなくなった・・・。
交通事故だったらしい。詳しいことは子供の私には教えてもらえなかった。
人間と獣人の「ダブル」の私は、いじめにもあっていた。
今ではそんなことはないが、「ダブル」は人間、獣人どちらの世界にも受け入れられず迫害を受けることもあった。私がいたのは山奥の小さな村だったから、その色が特別に強かった。そんなこともあって、私は実質的にも精神的にも一人になっていた。
 そして、栄吾君に会ったのはその時だった。栄吾君は確か家族旅行であの村へ来ていた。
いつものように私は同級生達から追い立てられ、いつもいた公園の林の中で隠れていた。
「ひっく、ひっく・・・」
がさっ。
いつもはここまで追いかけてくることのない彼等、だからこの時した物音は私に戦慄を覚えさせて・・・。
「ひっ!」
もう逃げられない、その思いで一杯になり。足がすくみ逃げることさえできなかった。
でも、そこに現れたのは・・・、彼だった。
「・・・大丈夫?」
「え・・・」
見たことのない男の子・・・。優しい目をした・・・彼。
「怪我してる・・・、ちょっと動かないでね」
「・・・」
 あたたかい光・・・。それが「能力」だと気付くのにしばらくかかった。
「あったかい・・・」
「はい、これで大丈夫だと思うけど」
「うん、ありがとう・・・」
「・・・君、ダブルだよね?」
「!!・・・うん」
「そっかぁ、凄いねぇ」
「え・・・?」
 凄い、そう言われたのは初めてだった。ダブルだからこそ私は苛められていたから。
「ダブルって普通の人より優れてるって聞いたよ?」
「そ、そうなの?・・・わたし、いつもダブルだから・・・苛められてるよ?」
「ふ〜ん、あ、そうだ!おいでよ。僕のお母さんもダブルなんだよ」
「え・・・。うん」
私以外のダブル・・・。この村には私以外のダブルはいなかった。だから、見てみたかった。大人になったダブルがどういう人なのか?私以外のダブルがどういう生活をしているのか・・・。
彼が言った「ダブルの方が優れている」その言葉の真実は何なのか・・・、知りたかった。だから、私は。
「えっと・・・」
「あ、僕の名前は栄吾だよ」
「栄吾君、栄吾君のお母さんに会わせてもらってもいい?」
 その時の私は、どんな顔をしていたのだろう?栄吾君は少し驚いた顔をしていたような気がする。そして、その後すぐに眩しいほどの笑顔で。
「うん、いいよ!こっちだよ」
「うん・・・」
 彼の暖かい手に腕を引かれながら、私はうつむいて何かをずっと考えていた。ううん、何も考えられなかったのかもしれない。まるで、自分の未来を垣間見てしまうのではないか。幼いながらもそんな感じがしていた。
「お母さ〜ん」
「あら、お友達?」
「うん、なんかね、お母さんに会いたいって」
「そうなの?初めまして」
 私を迎えたのは凄く綺麗でそして、私と同じダブルの女の人だった。その人は、とても幸せそうな、嬉しそうな、とても優しい笑顔を私に向けてくれた。それだけでわかった、この人は幸せなんだって・・・。
「初めまして」
「あら・・・」
「??」
「栄吾ちゃん、ちょっとお父さんを呼んできて」
「?うん、わかった〜。ちょっと待っててね、お父さんも呼んでくるから」
「うん・・・」
 そう言って彼は川のある方向へ走っていった。後から聞いた話では、その時彼のお父さんは川で釣りをしていたらしい。
「あなたも、ダブルなのね?」
「!・・・。そうです」
「そう・・・」
彼女は、それ以上何も言わなかった。でも、なんとなくわかってしまった。彼女も私と同じように、もしくはそれ以上に傷ついた時があったのだと。
「一つ、聞いていいですか?」
「なぁに?」
「どうして、そんなに幸せそうなんですか?」
 どうして、そんなことを聞いてしまったのか、自分でもわからなかった。ただ、それを聞けば少しは自分のことがわかるような気がした。
「あなたには、どう見える?」
「えっと、あの・・・。凄く、幸せそうです。私と違って・・・」
「そうね・・・、今は凄く幸せよ。私を愛してくれる人がいて。そして私が愛することのできる人がいるから」
「そうですか・・・。私は・・・」
 幸せじゃない。そう言いかけたとき、彼女は私の頭を抱いて。
「大丈夫、あなたにもきっと見つかる。大切な人が・・・」
「そんなの、わからないです・・・。ママも・・・ママもいなくなっちゃった・・・」
「・・・私達の街に来ない?」
「え・・・」
 何を言われているのかわからなかった。
「少なくとも、あなたを苛めるような人はいないわ。それに、あなたにも栄吾と同じく、能力があるみたいだから」
「え?え?」
「私はね、能力がある人がわかるの。そして、私の街には能力者専用の学校があるのよ。どう?今すぐとは言わないから、考えてみて・・・」

 その後、何を話したかは覚えていない・・・。
 でも、私はこの街へ来る決意をして・・・。栄吾君とも再会し、今は、凄く幸せな時を過ごしている。
 そして・・・。
「栄吾君、今日栄吾君の家に行ってもいいかな?」
「えっ!う、うん。いいよ」
「あ、今エッチなこと考えたでしょ〜?」
「ち、違うって!!」
「え〜、ほんとかな〜?」
 私は、今日もう一度栄吾君のお母さんに会って。言ってみようと思う。「私は今、幸せです・・・」と。
 そして、あの時言えなかった「ありがとう」を。
 悲しみの、過去を背負いながら歩く決意を胸に秘めて・・・。

引用なし

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