”破壊が無ければ再生は無い 生命の循環の永遠の形 真実の種から産まれた木”

MorningParkには大きな樹が生えていて、世界中の色とりどりの美しい花が咲き、あらゆる果物の実がなります。

このMorningParkの樹は、表現をするための掲示板です。どんな言葉でも、詩や小説、散文、イラストや音楽でもかまいません。あなたの思いを、届けてみませんか。
それはこの木を育む栄養になって、実をつけ、花を咲かせ、ここを訪れた旅人を癒します。

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管理人 えん

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Re:向日葵の騎士
 マリ WEB  - 17/8/7(月) 18:24 -
▼えんさん:
>向日葵の騎士
>
>旅人は花咲き誇る春もじりじり暑い夏も美味しい収穫をお腹いっぱい頬張る秋も寒さに震え涙する冬もただ歩いていました。
>季節は何回も繰り返し、悲しいことや楽しいことがありました。嬉しいことも苦しいこともありました。でもそのたびの日々の記憶は彼の中で宝石のように輝いています。
>それは物語を創る為に生きる旅で、学ぶ旅で、届ける旅でした。旅で出会った人や景色や出来事を物語に昇華させて、それを必要な人に届けます。
>お金は無くお腹はいつも空いていましたが、心はいつも幸せで、切なくて、胸いっぱいなのでした。それはあらゆる記憶の風景が、一枚の宝石で創った絵に、物語の美しい旋律になって、彼の心に流れ続けているからでした。
>
>ある落日の時刻。赤く長い影を荒野に足長おじさんの幻のように伸ばして、旅人は吹きすさぶ冷たい風に、ぼろぼろの外套に包まり、飛ばぬように帽子を片手で押さえて、ある町へと辿り着きました。
>それはモノクロの町でした。
>家々は真四角に建てられ、ドアも窓も止められた、車のタイヤも真四角で、なによりそれは白か黒かで塗られているのです。
>町にはどこにも人影がなく、迫り来る夜の冷たい匂いに腹を空かせ凍える旅人は、人を求めてその町を彷徨い続けました。
>すると、町の中央の広場から、人々の喚声が聞こえてきます。
>そこには、コロシアムがありました。
>真四角に作られた闘技場の周りを囲むように、白い服を着た人々と黒い服を着た人々が、分かれて何かの試合を観戦しています。白の住人たちの中央には、王冠をつけた子供の白の女王が座り、黒の住人たちの中央にはこれまた子供の黒の王が座って、四角いオペラグラスで観戦です
>旅人は人ごみを掻き分けその中を覗き込むと、そのコロシアムの舞台では、なんと色とりどりのぬいぐるみ達が、白旗と黒旗を掲げ、それぞれに白と黒の刻印を押されて殺し合いをしているではありませんか。
>そこではふわふわのタオル生地で出来たファンシーなキリンやクマ、うさぎにかぶとむし、ふなや鯉、金魚にさめ、蛇にさる、バラとゆり、チューリップ、それこそさまざまな種類のぬいぐるみ達が、剣や斧やとげや牙などの物々しい武器を身につけて、目を怒らせて文字通り腹綿を飛び出させ、取れそうな手足を引きずり、糸を引きずらせながら、命がけで戦っています。
>
>「一体これはなんですか?!」
>
>旅人が聞くと、面倒くさそうにでっぷり太った腹だけは丸い男が、いかり肩のデザインの真四角の貫頭衣を左右に振りながら答えます。
>
>「戦争さ。代理戦争だよ。自分たちが戦うと血が流れるだろう。だからぬいぐるみに戦わせるのさ。そうして決めるのだ。白の民と黒の民の間の面倒な揉め事を。収穫の取り分や、日当たりのいい場所、綺麗な水の使用権や、奴隷の割り振りやなんかを。」
>
>それはどちらかの色のぬいぐるみが勝ち残るまで続けられるようでした。
>
>◆
>
>彼は応援をする人たちに、物語を伝えようとしましたが、興奮のあまりに唾を吐きながら喚声を上げる人々は誰も、彼の話を聞くものはありませんでした。
>そのモノクロの国の人々は、誰も物語を必要としていないのです。
>やがて夜になって、試合が明日までの休憩になると、モノクロの人々はそれぞれ白や黒の家に帰っていきました。が、旅人はぼんやりとコロシアムの椅子に座り込んでいました。
>闘技場では息絶えたぬいぐるみや、ボタンがちぎれ綿が頭から飛び出しうめき声を上げる死に掛けのぬいぐるみ達が、掃除係のモノクロの奴隷たちによって糸くずの一本まで残さず掻き集められ、火がつけられました。
>すると様々な繊維の薬品のせいでしょうか、火は花火のように様々な色に移り変わり、水溜りの油の作る虹色のような、澱んだ火花を舞い上がらせます。それと共に闘技場は、観客席までいっぱいにまだ息のあるぬいぐるみたちの断末魔の叫びでいっぱいになりました。
>旅人は、その残酷な花火の景色を、忘れないように凝視して心に刻むように、虚ろに見ています。
>彼らの命の終わりを見届けたいと思ったのです。
>
>と、どこかからすすり泣く声が聞こえます。
>不思議に思って旅人が、その声をたどって闘技場の裏手にいくと、そこにはまだ戦える戦士たちを連れて牢屋へ入れる作業をしていた騎士の、白銀の鎧を着た女騎士がいました。
>旅人が
>
>「何故泣いているのですか?」
>
>と声をかけると、騎士は答えます。
>
>「私はぬいぐるみたちの牢屋番です。彼らは死ぬ為に創られ、戦い、死んでいきます。私は毎晩彼らが涙ながらに口にする最後の言葉を、牢屋番として耳にします。彼らはみんなもっと生きたかったといって死んでいきます。美味しいものが食べたかった、恋がしたかった、お洒落がしたかった、僕らはかりそめの命だから使われて終わりなのか。僕らの命に意味はいないのか、神よ。憎い、モノクロの民が憎い、殺したい、我々の苦しみを味合わせたい、そんな彼らの言葉を。だけど私には何も出来ないのです。ただ、泣くことだけしか。ところで、あなたは?」
>「私は、旅人です。世界中を旅して、美しい景色に、生命に出会い、物語を創り、物語を育み、物語を届けます。そうして生きているのです。」
>
>女騎士は首を傾げて興味深そうにそれを聞き終えると言いました。
>
>「私にはほんの少しのお金しかありませんが、彼らに物語を話して聞かせてやってはくれませんか。幸せになれる物語を、せめて死に行く彼らの為に。」
>「やってみましょう。」
>
>彼は言って、金色のコインを一枚受け取ると、彼は物語を語り始めました。
>
>◆
>
>それは風船につけられた向日葵の種の話でした。
>海辺の町の結婚式の始まりに放たれた、花の種のついたその風船は、北の雪寒い山の崖の上に落ちました。
>太陽や雪の精霊たちは、その種を可哀想に思い、小さな陽だまりを作ってそれを大切にしましたが、流れてくる寒さはどうすることも出来ません。
>向日葵は芽を出すことは出来ましたが、花をつける前に死んでしまいました。
>けれど芽は話しました。小さな雪の結晶たちに、彼が芽として生まれてくる前に、花の赤ん坊の国で聞いた自分と花の世界のことを。いかに向日葵という花が、立ったクマ程に背が高くて、葉は大人の手のひらより大きくて、花は、燃える火のように真っ黄色で、いつも太陽の方を向き、力強く優しく、その太陽にそっくりに、とても美しい花なのだと。
>他にも自分の知っている色とりどりの花のことを、芽は彼らに話しました。
>雪の結晶たちは、暗い大地に落ちてはそのまま溶けて死んでいきますが、その向日葵の芽のおかげで素敵な夢を見ました。一面の花畑と、風に揺れる大きな向日葵を。
>そうして彼らは、共に夢を見ながら死んで、天の国で雪の結晶たちは清らかな水に、小川に、向日葵の芽はその清水をいっぱいに吸って力強く優しく咲く黄色い向日葵になりました
>
>◆
>
>旅人が話し終えると、最初興味がなさそうにそっぽを向いていたぬいぐるみ達も、自分たちの境遇を思って抱き合って泣いているようでした。そこにはただ生きたいという思いだけが満ちています。
>白銀の騎士は言いました。
>
>「この国の人たちは、色を捨てたの。色物はスタイリッシュじゃないって、白や黒の服ばかり着て、物事は白黒はっきりさせるべきで、好きなら好き嫌いなら嫌い、あいまいなのはだめだって、なんでも勝ち負けにして、シンプルで早くて便利でみんな一緒が良いって、形まで統一しちゃった。個性なんて良くわからない複雑な気持ちは子供のうちにぬきとって焼き捨てるんだって、13歳の誕生日になったら、心の色を全部抽出して、それをぬいぐるみに縫い込んで、殺し合いをさせた。だから私も小さなころに色を奪われて、白か黒かを選択させられちゃった。好きな方を。だから忘れちゃったの。あいまいな気持ち。もやもやした気持ち。生きる意味を探し続けること。
>だけどね、死んでいく彼らを見ていると、なぜだか涙が止まらなくなるの。
>そうしてあなたの話で思い出したわ。
>あなたの物語で、私は心の中に、向日葵の黄色い花を持った。それは私に小さいころ遊んだ色とりどりの花の咲く野原を思い起こさせる。花冠を作って遊んだ、まだみんなが白でも黒でもない、ありのままで美しく輝いていられた日々のこと
>向日葵は、私に命をくれる。私には出来ることがある、私にはやらなければならないことがあるって、教えてくれた。」
>
>女騎士は、旅人に向き直って言います。
>
>「さあ旅人さん、ここにいては危険だわ。すぐに町を出てください。」
>
>旅人は問います。
>
>「どうして、何をするつもりです。」
>「私のしなければならないことよ。」
>「私もここにいます。」
>「だめ。」
>
>女騎士は言います。
>
>「あなたにはあなたの為すべきことがあるわ。あなたの目的地はここじゃない。あなたの為すべきことは、また別の誰かに真実の物語を届けること、でしょう?」
>
>旅人は頬を涙が流れるのを止められずに、後ろを向きます。そして言いました。
>
>「君、名前は?」
>「この町の人間は、みんな番号しか持たないわ。だから私に名前は無いの。でも、そうね……、向日葵の騎士と呼んで貰えるかしら。」
>
>旅人はそのまま頷くとそこを立ち去ります。
>ずっと後ろで重い鉄の扉の開く音がします。
>騎士は言います。
>
>「さあぬいぐるみさん達。もうあなた達は自由よ!」
>
>◆
>
>数年後、夏の始まりの季節に、旅人がもう一度そこを訪れると、町は廃墟となって何も無く誰もいませんでした。
>ただ色とりどりの野花がそこかしこに美しい花畑を作っていました。
>大きな月が出ていました。
>旅人は花畑の中央に、ひときわ大きく咲き誇る、一輪の太陽のような向日葵を見つけるとつぶやきます。
>
>「ただいま。」
>
>そうして隣に座って、一緒に、ただ静かに風に揺れていました。
>
>   終わり
>
>虎屋へ 2012年1月18日 えん


ご情報ありがとうございます。

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向日葵の騎士
 えん E-MAILWEB  - 12/1/22(日) 3:34 -
向日葵の騎士

旅人は花咲き誇る春もじりじり暑い夏も美味しい収穫をお腹いっぱい頬張る秋も寒さに震え涙する冬もただ歩いていました。
季節は何回も繰り返し、悲しいことや楽しいことがありました。嬉しいことも苦しいこともありました。でもそのたびの日々の記憶は彼の中で宝石のように輝いています。
それは物語を創る為に生きる旅で、学ぶ旅で、届ける旅でした。旅で出会った人や景色や出来事を物語に昇華させて、それを必要な人に届けます。
お金は無くお腹はいつも空いていましたが、心はいつも幸せで、切なくて、胸いっぱいなのでした。それはあらゆる記憶の風景が、一枚の宝石で創った絵に、物語の美しい旋律になって、彼の心に流れ続けているからでした。

ある落日の時刻。赤く長い影を荒野に足長おじさんの幻のように伸ばして、旅人は吹きすさぶ冷たい風に、ぼろぼろの外套に包まり、飛ばぬように帽子を片手で押さえて、ある町へと辿り着きました。
それはモノクロの町でした。
家々は真四角に建てられ、ドアも窓も止められた、車のタイヤも真四角で、なによりそれは白か黒かで塗られているのです。
町にはどこにも人影がなく、迫り来る夜の冷たい匂いに腹を空かせ凍える旅人は、人を求めてその町を彷徨い続けました。
すると、町の中央の広場から、人々の喚声が聞こえてきます。
そこには、コロシアムがありました。
真四角に作られた闘技場の周りを囲むように、白い服を着た人々と黒い服を着た人々が、分かれて何かの試合を観戦しています。白の住人たちの中央には、王冠をつけた子供の白の女王が座り、黒の住人たちの中央にはこれまた子供の黒の王が座って、四角いオペラグラスで観戦です
旅人は人ごみを掻き分けその中を覗き込むと、そのコロシアムの舞台では、なんと色とりどりのぬいぐるみ達が、白旗と黒旗を掲げ、それぞれに白と黒の刻印を押されて殺し合いをしているではありませんか。
そこではふわふわのタオル生地で出来たファンシーなキリンやクマ、うさぎにかぶとむし、ふなや鯉、金魚にさめ、蛇にさる、バラとゆり、チューリップ、それこそさまざまな種類のぬいぐるみ達が、剣や斧やとげや牙などの物々しい武器を身につけて、目を怒らせて文字通り腹綿を飛び出させ、取れそうな手足を引きずり、糸を引きずらせながら、命がけで戦っています。

「一体これはなんですか?!」

旅人が聞くと、面倒くさそうにでっぷり太った腹だけは丸い男が、いかり肩のデザインの真四角の貫頭衣を左右に振りながら答えます。

「戦争さ。代理戦争だよ。自分たちが戦うと血が流れるだろう。だからぬいぐるみに戦わせるのさ。そうして決めるのだ。白の民と黒の民の間の面倒な揉め事を。収穫の取り分や、日当たりのいい場所、綺麗な水の使用権や、奴隷の割り振りやなんかを。」

それはどちらかの色のぬいぐるみが勝ち残るまで続けられるようでした。



彼は応援をする人たちに、物語を伝えようとしましたが、興奮のあまりに唾を吐きながら喚声を上げる人々は誰も、彼の話を聞くものはありませんでした。
そのモノクロの国の人々は、誰も物語を必要としていないのです。
やがて夜になって、試合が明日までの休憩になると、モノクロの人々はそれぞれ白や黒の家に帰っていきました。が、旅人はぼんやりとコロシアムの椅子に座り込んでいました。
闘技場では息絶えたぬいぐるみや、ボタンがちぎれ綿が頭から飛び出しうめき声を上げる死に掛けのぬいぐるみ達が、掃除係のモノクロの奴隷たちによって糸くずの一本まで残さず掻き集められ、火がつけられました。
すると様々な繊維の薬品のせいでしょうか、火は花火のように様々な色に移り変わり、水溜りの油の作る虹色のような、澱んだ火花を舞い上がらせます。それと共に闘技場は、観客席までいっぱいにまだ息のあるぬいぐるみたちの断末魔の叫びでいっぱいになりました。
旅人は、その残酷な花火の景色を、忘れないように凝視して心に刻むように、虚ろに見ています。
彼らの命の終わりを見届けたいと思ったのです。

と、どこかからすすり泣く声が聞こえます。
不思議に思って旅人が、その声をたどって闘技場の裏手にいくと、そこにはまだ戦える戦士たちを連れて牢屋へ入れる作業をしていた騎士の、白銀の鎧を着た女騎士がいました。
旅人が

「何故泣いているのですか?」

と声をかけると、騎士は答えます。

「私はぬいぐるみたちの牢屋番です。彼らは死ぬ為に創られ、戦い、死んでいきます。私は毎晩彼らが涙ながらに口にする最後の言葉を、牢屋番として耳にします。彼らはみんなもっと生きたかったといって死んでいきます。美味しいものが食べたかった、恋がしたかった、お洒落がしたかった、僕らはかりそめの命だから使われて終わりなのか。僕らの命に意味はいないのか、神よ。憎い、モノクロの民が憎い、殺したい、我々の苦しみを味合わせたい、そんな彼らの言葉を。だけど私には何も出来ないのです。ただ、泣くことだけしか。ところで、あなたは?」
「私は、旅人です。世界中を旅して、美しい景色に、生命に出会い、物語を創り、物語を育み、物語を届けます。そうして生きているのです。」

女騎士は首を傾げて興味深そうにそれを聞き終えると言いました。

「私にはほんの少しのお金しかありませんが、彼らに物語を話して聞かせてやってはくれませんか。幸せになれる物語を、せめて死に行く彼らの為に。」
「やってみましょう。」

彼は言って、金色のコインを一枚受け取ると、彼は物語を語り始めました。



それは風船につけられた向日葵の種の話でした。
海辺の町の結婚式の始まりに放たれた、花の種のついたその風船は、北の雪寒い山の崖の上に落ちました。
太陽や雪の精霊たちは、その種を可哀想に思い、小さな陽だまりを作ってそれを大切にしましたが、流れてくる寒さはどうすることも出来ません。
向日葵は芽を出すことは出来ましたが、花をつける前に死んでしまいました。
けれど芽は話しました。小さな雪の結晶たちに、彼が芽として生まれてくる前に、花の赤ん坊の国で聞いた自分と花の世界のことを。いかに向日葵という花が、立ったクマ程に背が高くて、葉は大人の手のひらより大きくて、花は、燃える火のように真っ黄色で、いつも太陽の方を向き、力強く優しく、その太陽にそっくりに、とても美しい花なのだと。
他にも自分の知っている色とりどりの花のことを、芽は彼らに話しました。
雪の結晶たちは、暗い大地に落ちてはそのまま溶けて死んでいきますが、その向日葵の芽のおかげで素敵な夢を見ました。一面の花畑と、風に揺れる大きな向日葵を。
そうして彼らは、共に夢を見ながら死んで、天の国で雪の結晶たちは清らかな水に、小川に、向日葵の芽はその清水をいっぱいに吸って力強く優しく咲く黄色い向日葵になりました



旅人が話し終えると、最初興味がなさそうにそっぽを向いていたぬいぐるみ達も、自分たちの境遇を思って抱き合って泣いているようでした。そこにはただ生きたいという思いだけが満ちています。
白銀の騎士は言いました。

「この国の人たちは、色を捨てたの。色物はスタイリッシュじゃないって、白や黒の服ばかり着て、物事は白黒はっきりさせるべきで、好きなら好き嫌いなら嫌い、あいまいなのはだめだって、なんでも勝ち負けにして、シンプルで早くて便利でみんな一緒が良いって、形まで統一しちゃった。個性なんて良くわからない複雑な気持ちは子供のうちにぬきとって焼き捨てるんだって、13歳の誕生日になったら、心の色を全部抽出して、それをぬいぐるみに縫い込んで、殺し合いをさせた。だから私も小さなころに色を奪われて、白か黒かを選択させられちゃった。好きな方を。だから忘れちゃったの。あいまいな気持ち。もやもやした気持ち。生きる意味を探し続けること。
だけどね、死んでいく彼らを見ていると、なぜだか涙が止まらなくなるの。
そうしてあなたの話で思い出したわ。
あなたの物語で、私は心の中に、向日葵の黄色い花を持った。それは私に小さいころ遊んだ色とりどりの花の咲く野原を思い起こさせる。花冠を作って遊んだ、まだみんなが白でも黒でもない、ありのままで美しく輝いていられた日々のこと
向日葵は、私に命をくれる。私には出来ることがある、私にはやらなければならないことがあるって、教えてくれた。」

女騎士は、旅人に向き直って言います。

「さあ旅人さん、ここにいては危険だわ。すぐに町を出てください。」

旅人は問います。

「どうして、何をするつもりです。」
「私のしなければならないことよ。」
「私もここにいます。」
「だめ。」

女騎士は言います。

「あなたにはあなたの為すべきことがあるわ。あなたの目的地はここじゃない。あなたの為すべきことは、また別の誰かに真実の物語を届けること、でしょう?」

旅人は頬を涙が流れるのを止められずに、後ろを向きます。そして言いました。

「君、名前は?」
「この町の人間は、みんな番号しか持たないわ。だから私に名前は無いの。でも、そうね……、向日葵の騎士と呼んで貰えるかしら。」

旅人はそのまま頷くとそこを立ち去ります。
ずっと後ろで重い鉄の扉の開く音がします。
騎士は言います。

「さあぬいぐるみさん達。もうあなた達は自由よ!」



数年後、夏の始まりの季節に、旅人がもう一度そこを訪れると、町は廃墟となって何も無く誰もいませんでした。
ただ色とりどりの野花がそこかしこに美しい花畑を作っていました。
大きな月が出ていました。
旅人は花畑の中央に、ひときわ大きく咲き誇る、一輪の太陽のような向日葵を見つけるとつぶやきます。

「ただいま。」

そうして隣に座って、一緒に、ただ静かに風に揺れていました。

   終わり

虎屋へ 2012年1月18日 えん

引用なし

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森のログハウスに名前がついた日の話 の続き。
 えん E-MAILWEB  - 12/1/22(日) 3:33 -
http://ameblo.jp/the-road-to-truth2/entry-11097133753.html
森のログハウスに名前がついた日の話 の続き。
「さっちゃんとYdalirのみんなへ」

(ビクッ!)

ナナシは何かの殺気を感じます。
それは森の入り口の方から感じられるのでした。ナナシはアップルパイを口いっぱい頬張ったままで、顔だけをゆっくりそちらを向けます。

「***!!」

口いっぱいにアップルパイを頬張っているので、声にならない悲鳴を上げて、ナナシは止まっていたえんの肩口からずるりと落ちます。帽子がずれて、ナナシはすぐにそれを目深に被りなおして、そっとそちらのほうをもう一度見ます。
そこには物欲しそうな若い女が、木の陰からそっとこちらを覗いていました。

「ど、どうしたの、ナナシ。」

えんがそう問いかけると、ナナシが指差します。えんがそこをみると、白樺の木陰に隠れてそこにいたのは、えんの友達のさっちゃんでした。

「あ。さっちゃん。」
「ど、どうもえんさん〜。」

ナナシは急いでアップルパイを飲み込むと、エリアの後ろに隠れます。

「こらこら、失礼ですよ。ナナシ。」

エリアが諭しますが、後ろに隠れてそっと、さっちゃんと呼ばれたその若い女を見ているナナシです。
若い女は、恥ずかしそうに赤い顔をしてうつむいて、ファンシーな刺繍のされた緑色のカーディガンのすそを、もじもじといじっています。
えんが彼女を紹介します。

「こちらは、僕の友達のさっちゃんで、絵描きさん?役者さん?とにかく、夢いっぱいの人だよ。」
「あの、楽しそうでついうっかり来てしまいました。お邪魔してしまって、ごめんなさい。驚かせて、ごめんね?」

さっちゃんが優しい笑顔で言うと、ナナシはもう警戒を解いて、えっへん大丈夫という体でテーブルへ出てきますが、スプーンに引っかかってバランスを崩し、アップルパイにずぶりと手を突っ込んでしまい、それを抜くのでいっぱいいっぱいになりました。

「良くきたね、一緒にお茶をしていかないかい?」

えんが誘うと、彼女は顔いっぱいの笑顔になって嬉しそうにうなずくと、ちょこりとお辞儀をしました。
えんが椅子を引いて、彼女を席に座らせます。
と、エリアが長い髪をかきあげながら言いました。

「ああ、でもどうしましょう。もうアップルパイがほとんどありませんわ・・・。」

「気にしないで下さい」と、さっちゃんは言いましたが、みんなは頭を抱えました。
その時です。不思議な鳴き声が聞こえます。まるで、新雪をゴム靴で踏んでいるようなくっくっと言う可愛らしい鳴き声です。
えんは、にこりとしました。それと同時に、えんの頭の上にいたのは、つば広の帽子を被ったシマリスでした。彼がくっくと鳴いていたのです。

「ラタトスク。いつも思うのだけど僕の頭は君の巣じゃない。」

ラタトスクと呼ばれたそのリスは悪戯そうに笑うと、ナナシのところへ大ジャンプをし、耳に口を寄せます。

「おおっ!」

ナナシはリスを頭に乗せると

「おらちょっといってくる!すぐ戻る!」

と言って、ふよふよとどこかへ飛んでいきました。
後には呆然とするエリア・さっちゃん、えんが残されました。



久遠桜が、決して絶えることの無い花びらを、幸せの雨のように降らせ続けています。
そこはMorningParkの森の一番奥深くにある、秘密の場所です。
この桜は、MorningParkの同盟国である、イチイの木の谷「Ydalir」に原木があり、そこから種を分けて貰って植えられたものです。
この桜の木は、夢の水脈へとつながっていて、そこに住む夢先案内人の船に乗ることで、同じ桜の咲いているところへならば、何処へでも行くことが出来るのでした。
二人(二匹?)はその美しい桜をしばし見上げて、嘆息をついています。

「おおっと、見とれている場合ではない。さちえが待っている。」

いつのまにかさっちゃんを呼び捨てにしているナナシは、栗鼠のラタトスクと手をつないで頷きあうと、目を閉じて祈ります。
するとたちまちにして、彼らは舞い上がる桜の花びらの竜巻になって、消えてしまうのでした。



「おぉおおお。みんな来たのね!」

えんは感嘆の声を上げました。
森の奥、肩に桜の花びらを乗っけて、誇らしそうにやってくるナナシとその頭に乗っかったラタトスクの後ろに、白猫の姿をした柚子や、ひまわりの騎士の虎屋、きゃっきゃと駆け回るヨミー、はにかむ刹那やスキップする詩、他にもYdalirの谷の住人の皆さんが、それぞれいっぱいに甘い匂いを立てるお菓子を抱えて、立っていました。
ラタトスクは、Ydalirの国の使者だったのです。
代表して刹那が声を上げます。

「本当はお菓子だけ、届けるつもりだったのですが、みんながどうしても来たいというもので・・・。」

白猫の柚子がぴょんととんで、えんの胸に飛び掛ってきますので、えんは両腕で胸元にしっかりと柚子を抱きかかえると、

「さてはお前がわがまま言ったな?」

と、言いますと、柚子はにゃ?と我知らぬ声で鳴きます。
凛と背筋を伸ばした軽鎧姿の、虎屋と呼ばれる女の子が

「いえ、私もわがままを言いまして・・・すいません。。。」

と、言いますので、えんは言いました。

「いえいえ、大歓迎ってかむしろめっちゃ嬉しいって言う!!」

といって、突然柚子の白猫の両腕を持って踊るようにぐるぐると回ります。
その間に、エリアはさっちゃんの自己紹介をみんなに済ませて、みんなの分のワインやコーヒーや紅茶、どこから持ってきたのか白猫の為に柚子梅酒、ほろ酔いとかかれたチューハイの缶などを準備し、刹那たちから受け取った揚げたての砂糖のいっぱいかかったドーナツや、葉っぱの形の焼き菓子、切った先からとろりとチョコレートの溢れ出すフォンダンショコラ、えんの好きな団子などをテーブルいっぱいに並べました。

「さっちゃんは、甘いもの食べられます?大丈夫?」

エリアが問うと、すでにさっちゃんは酒好きの白猫と、いつのまにやらほろ酔いで乾杯を済ませ赤ら顔です。
えんは刹那にありがとうね、と会釈すると、言います。

「こんな大勢の楽しいティーパーティー・・・酒盛り? は初めてかもしれん!とっても嬉しい!ありがとう!!!」

ナナシとラタトスクはいつものごとく一つの団子のようになって喧嘩のようなじゃれあいをしておりますし、柚子とさっちゃんは飲み比べをしまどろんだ目で肩を組み合い、エリアと虎屋は女の子の話に花を咲かせ、詩はぐるぐる踊りを踊り、せっちゃんはフォンダンショコラに目を光らせえんの隣でフォークとナイフに手を動かし、よみーはいつのまにやら双六堂の屋敷に入って、えんの趣味である中世の武器を興味深げに手にとって、ポーズを決めて楽しんでいます。
他のみんなも、思い思いにティーパーティを楽しんで、森にはいっぱいに、みんなの笑い声が響きわたります。

えんはドーナツを口いっぱいに頬張りながら、今度はみんなを町のほうにも招待したいな、と思います。

その日、森は充分に日が暮れるまで、華やかな幸せの旋律を、世界中に響き渡らせ続けるのでした。

終わり

2012年1月12日 バタバタ木曜日に。
えん

引用なし

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森のログハウスに名前がついた日の話
 えん E-MAILWEB  - 12/1/22(日) 3:32 -
ナナシが久方ぶりに森へ行くと、えんがその小さな森の中の家に、看板をかけていた。
そこには耐水性のペンキで、黒々と太い筆文字で「双六堂」と書かれている。ナナシはそのログハウス様の屋敷に似合わない看板に、苦笑しながら言った。
「なんなん、その名前。」
「個人事務所設立したの。」
えんが、頬にペンキの跡を漫画のように残して言った。いわずもがな、手も真っ黒である。
「個人事務所。何の。」
「絵とか、文章とか、色々!」
「なんで?」
「なんでて、作家だから。」
「作家て、売れてないのに。」
「これから売れるの!!!MorningPark中で、いや世界中でみんなが読む作品書くんですから!」
「ああ、そうですか、そうですか。それは良かった良かった。」
ナナシは浮き上がりその小ぶりのログハウスの周りをぐるぐる回りながら、どうしてこの屋敷は外見より中はあんなに広いのだろうなあと思っていた。外から見ると6畳ぐらいしかなさそうなのに、実際中に入ると小さいキッチンにお風呂、本棚やベッド、クローゼットに机といろいろなものがぶち込まれている。
ひときわ大きい机は、南向きの窓に向かってどんつきで置かれている。そこから森のアカシアや楡や柏の木が見える。えんはずっとその窓辺で、思う存分執筆をするのだ。
朝も、昼も、夜も。太陽や星や月、ランプの明かりの下で。
そして執筆に疲れると森を散策する。リスを肩の上に乗せて、話しながら森を回ることもあれば、友達とボートに乗ることも、ナナシと木登りをすることもある。
台風の日の後に、友達だった木が倒れているときは、泣いて、強い風の日には森の友達の動物のことが心配で、執筆が手につかないこともある。

森の奥の、大きな泉に、銀の月が出て、水面が鏡のように見える夜に、そっとボートで出るのが好きだった。そしてボートの中にだらりと寝そべって、恋の詩を書くのだ。
往々にして、その彼の恋は叶わない。

机の前に座って、目をつぶると、彼は現実社会に帰ることが出来る。
ナナシは彼が「現実」という世界でどういう生活をしているのか知らない。いろんな時間にMorningParkに戻ってきては、彼はふらふらしている。
そしてナナシはその彼と遊ぶのだった。大体の時間、彼はここにいる。
ナナシは彼の顔を、帽子の下に隠した大きな目でじっと見つめる。そして言った。
「早く売れると良いね!現実でも、MorningParkでも!」
「だねぇ・・・。」

けれどもナナシはぼんやりと、まあ今でも十分幸せで楽しいと思っていた。
えんが売れて変わってしまったりしたらやだなと考えた。
それは昔、もう一人のえんと呼ばれていた、この町の創設者エンデリアが、自分を置いていなくなってしまった様に。エンデリアはもうずっと長い旅に出て、帰ってこない。エリアしかその居場所は知らない。(もしかしたらこの町の奥深くでずっと眠っているのかもしれない。)と、ナナシは思った。
たまに旅からエンデリアは帰ってきても、しばらくするとまた出かけてしまう。
そういえば、えんはエンデリアにあったことがないはずだ。でも、えんとエンデリア・・・あれ?

そこへ、エリアがやってきた。
「あらあら、その看板は一体なんですか?」
薄い白い透明なベールをまとい、桃色のワンピースに羽毛のカーディガンを羽織ってエリアはにこやかにそういうと、彼女は、手に持った小さいバスケットを差し出す。
ナナシが覗くとそこには焼立てのアップルパイがほかほかと甘い匂いを立てていた。
ナナシはにんまり笑ってえんに「紅茶の準備を!」と言うので、エリアとえんは苦笑いして、エリアが「よろしくお願いします」と言った。

双六堂と言う名で呼ばれることになったそのログハウスの、小さなテラスで、丸い鉄のテーブルを出して、彼らはティーパーティーをする。
「ねえねえ、えんってエンデリア様に似てるよねぇ。若いころのエンデリア様に。」
「そうかしら・・・?」
えんとエリアはぎこちなく笑った。
彼らは、えんとエンデリアの関係性を知っているのだ。それはこのMorningParkに関する、もっとも大きな秘密の一つである。
けれど、ナナシに説明したってわからないだろうしな、とえんは、アップルパイを大きくほおばりながら考えた。
小さな赤い胸毛をしたこまどりが物欲しげにやってきたので、えんはアップルパイの端を少しちぎって投げてやった。こまどりは首をかしげて、それをついばむ。
ナナシはそれをまねして、自分のアップルパイをちぎって投げてやる。

快い風が、静かに森を吹き抜ける。

こうして新しく「双六堂」と名付けられた森のログハウスの一日は、いつものように過ぎていくのだった。

終わり 2011年12月4日6:00

引用なし

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MorningPark物語:君に会いに(草稿)
 えん E-MAILWEB  - 11/12/4(日) 6:17 -
MorningPark物語:君に会いに(草稿)

用語・登場人物解説
この町:ある旅人が作った大きな木を中心にした旅人の町。この世とあの世の間にあり、力尽きた旅人にはそこへ通じる扉が現れるという。旅人と精霊・妖精・妖怪・天使・悪魔の類が共生している。
ナナシ:その町に住む子供の妖精。目がでかいのをコンプレックスにしていて、拾った帽子をいくつも頭に被っている。穴が開くとそこを広げて、何個も頭に被る。変幻自在である。
えん:森のはずれに住む旅人の青年。

この町を誰より愛する君に

ナナシは草原で、女の像に寄りかかり、空を見上げていた。
その女は、ずっとこの町で、とある旅人を待ち続けて死んだ女で、町中の旅人に愛されたからみんなにお母さんと呼ばれていたし、それでここに像が建てられた。
人以外の生命はこの町では基本的に死なない。精霊や妖精、妖怪などのそれらの類は、自分で死ぬ時を決めるし、蘇ることだって出来る。
だから、彼ら人でないものにとっては、彼女が自分たちが体験する最初の死であった。
ナナシは青空を見つめて雲を眺め、彼女のことを考えていた。
「あいつのところへ行きたい。」
空にいそうな気がして、どうにかして、空へ行こうと彼は考えた。
ナナシは少しなら浮ける。
けれどもせいぜい二階建ての家の窓ぐらいまでだ。
それ以上浮くと、ふわふわと落ちてしまう。
どうしたらいいか考えあぐねて、ナナシは森のはずれの、「えん」のところへ来た。

「えん」は、自由を愛してこの町へやってくる青年だ。仕事もせずに日がな一日、森の手作りのぼろ屋敷で、本を読み、詩を書き、釣りをし、動物相手に歌を歌ったりしている。だが、人間界でたまに生活していることもあってか、知恵があるのだ。

「うーん。風船とか。」
「いやだ。もし手を離したらどうするんだ。私が。」

湖の中央で小船に横たわり、パラソルを立てて本を読んでいるえんに、ナナシは抵抗した。

「じゃあ・・・背中に結んであげるよ。」
「降りて来る時や移動はどうするんだ。」
「君は思いつきは適当なのに主張はまじめだね。」
「ちゃんと考えてくれ。ソフィアに会いたいんだ。自由に行き来出来なくてはならん。」
「そうだなあ・・・。風の妖精とかに頼むのが一番いいんじゃないか。」
「この役立たずめ。」

ナナシは何も考えずにえんを選んでしまったことを公開しつつ、ふわっと飛び立った。

「で、風の妖精はどこにいる。」
「知らないの。」
「教えろ。」
「たぶん山の上のほうにいると思うよ。」
「じゃあお前も来い。」
「なんで。」
「一人で山を登るなんて寂しいじゃないか。」



山登りの途中でナナシは道草を食い、岩場の鳥の巣で一緒に昼寝してみたり、なだらかな斜面があれば滑り降りてみたり、桃色の小さな綺麗な花を中心にして、えんと手をつないでおどったりした。
いつしか日は落ちて、頂上につくころには、夕焼けが見えた。

ナナシは、夕焼けを見ながら、おもむろに言った。

「ああ、ソフィア、いるじゃないか。あんなところに。」
「え、どこに。」

えんは聞いた。

「あの夕日の中に。あの夕日の温かさは、ソフィアの笑顔だ。ちょっと、行ってくる。お前も行くか?」
「え、うん、よくわかんないけど、行く。」

ナナシはにこりと笑って、いくつもかぶっている帽子を深く被り直し、えんの手を握る。
えんの背中に、透明な羽が左右二枚ずつ生える。
ナナシは、「風―!かぜやーい!たーすけーてー。」といって、風を呼ぶと、風の精霊の頬に頬を合わせて挨拶をする。
夕日に向かって、気持ちの良い風が吹いた。

「あの夕日の中に、あいつがいるんだ。行くぞ。そんで、ホットケーキを焼いてもらわなければならない。久しく食べてないからな。本当にうまいんだ。」

えんは、自分も食べてみたいと思った。
一人と一匹はそうして、風に乗って、夕日の方へどこまでも飛んで行った。

大好きな、君に会いに。

おしまい

20110826

引用なし

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獣王ゴードン(草稿)Ver1.01
 えん E-MAILWEB  - 11/12/4(日) 6:17 -
獣王ゴードン(草稿)Ver1.01

 ゴードンは王国の西の砦の警護を任されていた。
 時は聖王ジャスティンの治世。魔王セロとの争いは熾烈を極め、両国は互いに疲弊し、戦火は膠着状態にあった。
 砦の向こうには魔王の統治下にある死の国ネリューデがあり、そこに住む死に神たちがもし大挙して押し寄せ砦が破られれば、魔王軍の勝利は決したのも同じことであった。
 にもかかわらず、彼はただ一人で、この砦の警護を任されていた。
 西の砦は砂と岩の荒野の真ん中にある。見渡す限り何もないその砦の屋上で、ゴードンはポケットから煙草を取り出し、じっと見つめた。
「今日ぐらいやめとくかねぇ……。」
そういうと彼は煙草をもう一度ポケットに仕舞い直す。
 階段を下り、壊れかけたテープレコーダーから、古いジャズをかけると、彼は一通り筋トレをし、熱いコーヒーを入れ、読書を始める。
(何の為に俺は、努力しているのか。勝ち負けになんて何の興味もねぇのに。)
彼はその時窓越しに荒野を見つめ、死に神や悪魔たちが群を成してこちらへ向かって来るのを見た。
「おでましか。」
彼は木のテーブルにグラスを置き、地下の倉からワインを持ってくると、ボトルを空け、そのグラスに注ぐ。
 そのワインの色は真っ黒であった。まるで汚れた血の色みたいに。彼はそれをぐいっと飲み干すと、一人ごちた。
「今日ぐらい、ゆっくりさせてくれないもんかね。」
独り言が増えた。彼は思いながら、口元の黒いワインを拭う。
 彼には愛する人がいた。けれど、彼は彼女に愛されることはなかったし、身分の違いもあって添い遂げることは出来なかった。その日に、彼は「挺身」を申し出た。挺身とは、この黒いワインを飲むことを意味した。
 それは、特別な薬で、コーネリア王国の科学部が偶然発見したものだ。魔王との決着を急ぐ聖王ジャスティンの命により、それはたいした検証も行われずに、実戦に用いられることとなった。
 この薬は、遺伝子に変化を起こさせる。この薬を使用したものの半分は、その薬の副作用に耐えられず肉塊となり、もう半分は発狂し、異形の獣となる。そして、さらにその残りの半数だけが、意思を持ったまま、半身半妖となり「人ならざる力」を持つのだ。
 その中でもゴードンは最強の獣へと変化し、王を喜ばせた。

 彼は咆哮を上げる。砂漠の真ん中で。
 彼の体は変化していく。
 巨大な鷹の翼、頭は獅子、尾は蛇のそれに。
 それは伝説の獣にちなみ、獣王キマイラと呼ばれた。
 彼はディナーのように、敵の肉を食らい、血を飲み、雄叫びを上げる。それは彼が唯一生きていると感じられる瞬間だった。
 今もコーネリアのどこかで生きているであろう大切な人の為に、自分が出来ることは、この砦を守り続けること。それだけだった。それ以外に、この命に意味は無かった。
 いつも、砂と岩だらけの荒野が世界の全てで、モンスターだけが仲間だった。同じ化け物のような姿をして、無意味な争いを楽しむ、同じ気持ちを共有する唯一の友。
 殺し合うことが、生きることだった。

 ゴードンは夜空を見上げる。
(幸せにしているか……。)
人としての記憶が薄れることはあっても、彼はその人の誕生日を忘れることだけは決してなかった。

引用なし

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森のログハウスに名前がついた日の話
 えん E-MAIL  - 11/12/4(日) 6:14 -
ナナシが久方ぶりに森へ行くと、えんがその小さな森の中の家に、看板をかけていた。
そこには耐水性のペンキで、黒々と太い筆文字で「双六堂」と書かれている。ナナシはそのログハウス様の屋敷に似合わない看板に、苦笑しながら言った。
「なんなん、その名前。」
「個人事務所設立したの。」
えんが、頬にペンキの跡を漫画のように残して言った。いわずもがな、手も真っ黒である。
「個人事務所。何の。」
「絵とか、文章とか、色々!」
「なんで?」
「なんでて、作家だから。」
「作家て、売れてないのに。」
「これから売れるの!!!MorningPark中で、いや世界中でみんなが読む作品書くんですから!」
「ああ、そうですか、そうですか。それは良かった良かった。」
ナナシは浮き上がりその小ぶりのログハウスの周りをぐるぐる回りながら、どうしてこの屋敷は外見より中はあんなに広いのだろうなあと思っていた。外から見ると6畳ぐらいしかなさそうなのに、実際中に入ると小さいキッチンにお風呂、本棚やベッド、クローゼットに机といろいろなものがぶち込まれている。
ひときわ大きい机は、南向きの窓に向かってどんつきで置かれている。そこから森のアカシアや楡や柏の木が見える。えんはずっとその窓辺で、思う存分執筆をするのだ。
朝も、昼も、夜も。太陽や星や月、ランプの明かりの下で。
そして執筆に疲れると森を散策する。リスを肩の上に乗せて、話しながら森を回ることもあれば、友達とボートに乗ることも、ナナシと木登りをすることもある。
台風の日の後に、友達だった木が倒れているときは、泣いて、強い風の日には森の友達の動物のことが心配で、執筆が手につかないこともある。

森の奥の、大きな泉に、銀の月が出て、水面が鏡のように見える夜に、そっとボートで出るのが好きだった。そしてボートの中にだらりと寝そべって、恋の詩を書くのだ。
往々にして、その彼の恋は叶わない。

机の前に座って、目をつぶると、彼は現実社会に帰ることが出来る。
ナナシは彼が「現実」という世界でどういう生活をしているのか知らない。いろんな時間にMorningParkに戻ってきては、彼はふらふらしている。
そしてナナシはその彼と遊ぶのだった。大体の時間、彼はここにいる。
ナナシは彼の顔を、帽子の下に隠した大きな目でじっと見つめる。そして言った。
「早く売れると良いね!現実でも、MorningParkでも!」
「だねぇ・・・。」

けれどもナナシはぼんやりと、まあ今でも十分幸せで楽しいと思っていた。
えんが売れて変わってしまったりしたらやだなと考えた。
それは昔、もう一人のえんと呼ばれていた、この町の創設者エンデリアが、自分を置いていなくなってしまった様に。エンデリアはもうずっと長い旅に出て、帰ってこない。エリアしかその居場所は知らない。(もしかしたらこの町の奥深くでずっと眠っているのかもしれない。)と、ナナシは思った。
たまに旅からエンデリアは帰ってきても、しばらくするとまた出かけてしまう。
そういえば、えんはエンデリアにあったことがないはずだ。でも、えんとエンデリア・・・あれ?

そこへ、エリアがやってきた。
「あらあら、その看板は一体なんですか?」
薄い白い透明なベールをまとい、桃色のワンピースに羽毛のカーディガンを羽織ってエリアはにこやかにそういうと、彼女は、手に持った小さいバスケットを差し出す。
ナナシが覗くとそこには焼立てのアップルパイがほかほかと甘い匂いを立てていた。
ナナシはにんまり笑ってえんに「紅茶の準備を!」と言うので、エリアとえんは苦笑いして、エリアが「よろしくお願いします」と言った。

双六堂と言う名で呼ばれることになったそのログハウスの、小さなテラスで、丸い鉄のテーブルを出して、彼らはティーパーティーをする。
「ねえねえ、えんってエンデリア様に似てるよねぇ。若いころのエンデリア様に。」
「そうかしら・・・?」
えんとエリアはぎこちなく笑った。
彼らは、えんとエンデリアの関係性を知っているのだ。それはこのMorningParkに関する、もっとも大きな秘密の一つである。
けれど、ナナシに説明したってわからないだろうしな、とえんは、アップルパイを大きくほおばりながら考えた。
小さな赤い胸毛をしたこまどりが物欲しげにやってきたので、えんはアップルパイの端を少しちぎって投げてやった。こまどりは首をかしげて、それをついばむ。
ナナシはそれをまねして、自分のアップルパイをちぎって投げてやる。

快い風が、静かに森を吹き抜ける。

こうして新しく「双六堂」と名付けられた森のログハウスの一日は、いつものように過ぎていくのだった。

終わり 2011年12月4日6:00

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自作都都逸
 えん  - 11/11/5(土) 16:52 -
所詮他人と硝子を割って家宅の家を駈けにけり

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自作都都逸集
 えん  - 11/11/2(水) 22:59 -
誰か助けてゾンビのようにパリサイ人のさまよえり

抱いて愛して寂しい辛い暗い苦しいもう嫌だ

君の孤独な背中を追って僕は真似るよあの夕日

君が恋する男は来ない君は淋しく僕を待つ

てあみむすぼれほつれてほどきたぐりたちきる恋の糸

朝日背中に小坂を登る君の背中に口づけて

引用なし

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自作都都逸集
 えん  - 11/8/29(月) 1:09 -
せめて都都逸くらいは心自由に書くことお許しを

なんでどうしてなげいてねむるきみのゆめをばみんとこう

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推敲
 えん  - 11/8/20(土) 18:12 -
君がねじまき忘れたままで止まった時計動かない

でも良いなぁ

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自作都都逸集
 えん  - 11/8/20(土) 6:26 -
抱かれたいなど髪振り乱し自分の醜さ呪うのだ

吾が顔見てる物言わぬこと知っているのよ鏡さん

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自作都都逸集
 えん  - 11/8/19(金) 6:27 -
タイムトンネル駆け抜けていざ、あなたの胸に飛び込むの

涙溢れて止まらないのよゲリラ豪雨に打たれおり

名前尋ねたあの日はいつか思い出せぬままの旅立ち

引用なし

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都都逸と短歌 夏
 えん  - 11/8/19(金) 1:55 -
なんで どうして 叫んでみても 海は広いね 夏がゆく

眠れずに
死を請う私を
笑うよに
闇夜に狂い鳴く蝉ら
死ね

引用なし

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自作都都逸
 えん  - 11/8/12(金) 6:16 -
ぼくはおばけはこわくないびぃふじゃあきいくいちぎるなつ

引用なし

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自作都都逸
 えん  - 11/8/11(木) 14:48 -
一人静かに別れを決めたゲリラ豪雨の降る真夏

引用なし

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自作都都逸集
 えん  - 11/8/7(日) 12:44 -
光と闇を抱きしめている君に最期の口づけを

右を向いても左を見ても人間ばかり猿ばかり

引用なし

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自作都都逸
 えん  - 11/8/4(木) 2:25 -
仏の悟りより美しい愛の形を知る朝日

けっして叶わぬ恋がある必ず叶う恋があるよに

引用なし

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<DoCoMo/2.0 SH03A(c100;TB;W24H16)@proxyag110.docomo.ne.jp>
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自作都都逸集
 えん  - 11/8/2(火) 0:01 -
君と愛した道順忘れ夢の街路をさ迷えり

君がねじまき忘れたままで止まった時間動かない

虹の向こう「約束だよ」と君が笑った夏休み

引用なし

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自作都都逸
 えん  - 11/7/30(土) 16:02 -
触れて折れそな蝶など狩らぬ虎を狙うが女郎蜘蛛

引用なし

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<DoCoMo/2.0 SH03A(c100;TB;W24H16)@proxyag111.docomo.ne.jp>
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