長く伸びる影。日常的な喧嘩が繰り返される道。 今日もまた喧嘩が始まっていた。 人ごみが周りを囲んで野次を飛ばし、それを受けて喧嘩を続けている。 その人ごみの中に女がいた。 実際少女と呼ぶぐらいの年齢なのだろうが、内に秘める力がそう呼ばせることを躊躇わせる。 和風の黒い着物を身につけ腰に刀。髪は黒く、ポニーテールにしている。 女の名は閃空・凪・スプラッシュ、年は12。 俗に言う不幸の少女みたいな経歴を持つが本人は気にしていない。 剣術の師範だった父親が死に、弟子が後を継いだのだが… その弟子が暗殺集団の一員だった事から、この少女に暗殺を頼んだのだ。 勿論受けないと言ったのだが、門下生を人質に取り、脅されてしまった。 結果、少女は暗殺を引き受け、この町でその標的の情報を集める為にギルドに住みこんでいる。 ・・・・・・・・・・ (今日も始まったで御座る…) 私は呆れ気味に思う。 (毎日喧嘩する人が決まっているならまだしも…) そう、絶対に違う人が喧嘩をするのだ。 大体男同士が喧嘩するが女もする事が稀にある。 (この町は治安が悪いで御座るな…) しみじみと考える…という暇も無い。 止めなくてはいけないのだ。 そして前に歩み出そうとした時… 喧嘩の当事者達に向かって異様な威圧感が何処からか放たれた。 普通ではない威圧感を食らって当たり前の様に当事者達は気絶。 私は辺りに目を走らせる。だが、すでに威圧感を放った者の余韻も無かった。 とりあえず走り出す。そこにいるよりは見つけれる可能性が断然高い。 しかし、日が暮れるまで走りまわっても見つける事はできなかった。 (…仕方ないで御座る。) 私は住みこみのギルドに足を向けた…。 ギルドに着いて自分の部屋に上がる。そしてベッドに寝転んだ。 (何者だったので御座ろうか…。) 人を一瞬で気絶させる事のできる威圧感など感じた事も無かった。 「できれば、会って戦ってみたいで御座るな。」 その時負けたとしても悔いは残らないだろう。 父から伝授された剣術を全て使いきって戦ってみたい。 だが…その前に暗殺を終わらせなければいけない。 (戦うためには…見つけなければ…) そして私は眠りについた…。 …次の日の朝… 住みこみのギルドをやめて、私は旅に出た。 町の人の別れの言葉と情報を聞いて回り、この町を出た。 馬車に乗って次の町に移動している時、同席していた青年に話しかけられた。 「君は誰かを捜しているね?」 こちらの事情を知っているのかどうかは知らないが、一言目がそれだった。 「君が捜している者は最早この国にはいない。」 「何処に行ったかは分かるで御座るか?」 私は無意識のうちにそう答えていた。 「馬車を降りずにバスワルド王国まで行くと良い。そして町の人にこう聞くんだ。」 青年は一息ついて… 「この国にいる一番強い者は何処にいるってね。絶対に答えてくれるよ。」 そこでタイミング良く馬車は次の町に着いた。 他の客が降りて行く。青年は降りなかった。 …そして時は過ぎ… 「貴殿は…何者で御座るか?」 他の客が寝て、国境を渡る道へ馬車が向かった時、私は聞いた。 「ヴォイス。バスワルド王国に住みに行くただの青年さ。」 (本当に…ただの青年なので御座ろうか…) 私はこのヴォイスとはいつかまた会う事があると直感した。 (その時は多分…敵として会う事になるで御座るな。) 自分自身なぜかは分からない…。 ただ、私の直感は外れた事が無い。 ヴォイスの方を見るともう寝ていた。 (今ここで殺しておいた方が良いかも知れぬで御座るが…) まだ私もヴォイスも将来がある。 あまり多く人をこの手で殺めたくは無い…。 考えている間に私の意識も暗転していった…。 皆が寝ている間に馬車は国境を越えて近くの町に入った。 その時にはもう私は起きていてすぐに馬車から出た。 真夜中でも起きている人がいて、まともそうな人に、 「この国にいる一番強い者は何処にいるで御座るか?」 と聞いてみたら、その人はあっさりと、 「城下町郊外の一番でっかい家を訪ねてみな。ジュリアス・アフレアっていう人がいるから」 と言った。 (な…!?) 私は今までに無く驚いた。 いとも簡単に標的を見つけてしまったのだ…。 それもかなりの有名な人物らしい…。 (それでも行かなくてはいけないで御座る。人質を助け出す為に…。) そして私はもう一度馬車に乗った。 …バスワルド城下町… 「っくぁー、からだがなまってるなぁ…。」 大柄で赤髪の男が伸びをしながら言う。 「いつでもなまってるだろーが。」 横に並んでいる黒髪の男がそう返す。 「お前この前の町で本気出したから良いだろーが。」 その二人ははたから見ていても分かるぐらい、町の人達から一目置かれていた。 私はあえてその二人に声をかける。 「ジュリアス・アフレアという者を知らぬで御座るか?」 二人は振り向いた。 「俺のことだが?」 黒髪の方が真面目に答える。 「この間の町でのいざこざ止めたから追ってきたって訳じゃ無さそうだな。」 赤髪の方は無表情だ。 「ちなみに…戦うつもりなら俺を倒してからにしてもらおうか。」 さらに赤髪の方が続ける。 (まずい…体力を消耗して敵に挑む気は無いで御座るが…) この場合どうしても戦わなければ行けないような気がしてならない。 とりあえず、私は刀に手をかけた。 「待て、デス」 少々高い声が赤髪の方を呼んだ。 裏の通りから男が出てきた。 それは… 『ヴォイス!?』 私とデスと呼ばれた男の声がハモった。 「ジュリアス、そいつは任せた。」 デスはそういってヴォイスの方に歩く。 ジュリアスは剣を抜いた。 私も構える。なぜか力が充実していた。 (先手必勝!) 私は一気にフルスピードで斬りかかった。 しかし、弾かれる。 私は弾かれた反動を利用して間合いを取り、鍔の引き金を引く。 「彗星斬ッ!!」 赤い熱衝撃波がジュリアスに向かって突き進む。 ジュリアスは避け、衝撃波はデスに直撃した。 火柱が一瞬燃え上がり消える。普通なら死んでいる所か塵しか残らないはずなのだが… 堂々と、デスは立っていた。全く彗星斬を意に介さず、ヴォイスとなにかを喋っている。 「デス!ブレイカー・フィールド(※)を!」 ジュリアスが叫んだ時、周りの空間が緑色に覆われた。 その程度の事は気にしていられない。 ただ、ジュリアスを倒す事のみに専念しなければ…。 「地擦り残月!」 私は地に刀を刺し、そのままジュリアスに向かって走る。 そしてジュリアスの目の前で分身(とりあえず魔力で作り出してる)。 切り上げとそのまま突っ込むのと振り下ろしを別々に担当させ自分は一文字薙ぎ。 受けることは不可能であり、避けるのも相手の行動を読まない限り無理だと思われる技だ。 父が伝授してくれた一番目の技である。 しかし読んでもいないはずなのに、ジュリアスは後ろ45度に跳躍して避けた。 分身が消える。私は驚いていた。まさか避けられるとは思わなかったのだ。 (国の最強とは…あながち嘘ではないという事で御座るか) 気を取りなおし、刀を鞘に収めた。 「抜刀術か…ドラゴンブレードだと難しいんだが…」 ジュリアスも大剣を鞘に収めた。 あくまでも合わせるつもりらしい。 そもそも大剣で抜刀術を放てるかどうかも定かではないはずなのに…。 「抜刀燕返しッ!!」 人間には見えないスピードで太刀を繰り出した。 だが、弾かれてしまった。しかも同じ抜刀術でだ。 (嘘ッ!?) さすがにもう動揺は隠せない。最速のはずの剣と受けとめたのだ。 有り得ないはずだった。だとすると、人間ではないと言う事になってしまう。 (このままだと門下生の命が…) 自分の精神が錯乱し始めた。まず己の身から案じるはずなのに、他人が先になってしまっている。 残っているまともな精神をフルに使って考える。 (今、私はジュリアスと戦っていて、地擦り残月と抜刀燕返しが破られて…) どんどん思考が難しくなっていく。 (それで今から何を使うか迷っていて…) ジュリアスと撃ち合っているが無意識に撃ち合っている。 (何を使えば…)「はああっ」 自分の意思とは無関係に、気合いをため始めた。 ジュリアスも気合いをためている。なにか技を出すつもりらしい。 しかもかなり大きい技を…だ。 (えっと…)「食らえッ彗星突ッ!!」 私は風と自分の闘気を纏い、ジュリアスに突っ込んだ。 (え……?) 自分で何をしているのか分からない…。 ただ、体に激痛が走ることだけは止められなかった。 かすった手応えしかなく、彗星突は空振りに終わった。 筋肉が引きつって、動けずに地に倒れ伏した。 最早立ちあがる気力も体力も無い。 (ここで終わりで御座るか…) 出来る事なら立ちあがって斬りかかりたいが、ジュリアスは剣を振りかぶっている。 もう何もかもが遅すぎる…。 私はジュリアスの方を振り向いた。 瞬間…ジュリアスは剣を止めた。 剣に込められていた気が拡散する。 「殺すで…御座る…」 やっとの事で声を絞り出す。 ここで情けなどかけられても…もはや遅い…。 「終わったか。所詮ただの人質の為にここまでするなんてな…。」 デスの声だ。辺りは緑色では無くなっている。 「殺さないのか?…なるほど、殺したくないんだな。」 何かデスからは違和感を感じる。 何者かは分からないが…。何故、雰囲気が違うのだろう…。 人なのだろうか…。いや、人であることは間違い無いはず…。 「さて…ヴォイス?良いんだな?」 デスがヴォイスの方を見た…らしい。 「かまわん…。目的は既に果たしているからな。」 ヴォイスの気配が消え去った。 「殺し…なさい」 無理矢理、声を出す。 「それは…出来ない。俺の信念に反するし…」 「俺の前だからな。」 ジュリアスが言い出し、デスが紡ぐ。 その言葉を最後に…私の意識は暗転した。 …何日眠ったか分からないがとりあえず朝… 知らない天井。寝心地の良いベッド。額に乗る冷たいタオル。 (!!!!!???) 一気に私は跳ね起きた。が、すぐに激痛が走り動きが止まる。 「起きたか…」 ジュリアスの声だ…。何故? 「凪さん!!」 (?この声は何処かで…) 目を少しずつ開ける。 そこには、人質のはずの門下生達が全員いたのだ。 「なんで皆…ここにいるで御座るか?」 「デスが自分から出向いて行って、敵を皆殺し。それも剣技で殺った。」 ジュリアスが事の顛末であろう事を手短に済ました。 「凄かったっすよ!凪さんも見れれば良かったんですがね!!」 一人がそう言ったのを始まりに会話が始まった。 「服はそこに畳んで置いてる。デスが話があるそうだから出て左の階段を上がって…」 部屋を教えてくれ、ジュリアスは出て行った。 私は布団の中で着替えて部屋を出る。 言われた通りの部屋の前に立ち、ノックした。 「開いてる。入れ。閃空・凪・スプラッシュ。」 ドアを開けて入る。ドアを閉めると、勝手に鍵が掛かった。 「さて、使っていたのは次元斬一刀流。それの創始者の娘。現在12歳。父親から貰った刀を使う。 父は半年前に他界。一番弟子が継いでから暗殺組織の手先であったそいつから暗殺命令が下された。 それで、となりのキート国のある町に、住みこみをして、ギルドで働いていた。っとここまでかな。」 私の経歴を調べたらしい。まあ良いけど。 「んで!暗殺に失敗。気絶の後我が家に連れて来られて看病してもらったと。ついでに言うと、 門下生も助け出してもらったってとこだな。」 (気楽に言うで御座るな…) 私がそう思っていると… 「気楽だって?確かに気楽だがな。ちなみに俺は読心術使えるから。」 「本題は何で御座るか??」 私は率直に聞いた。 「ッつー訳で借りがあるだろ?仲間になりな。そんだけだ。」 こっちも率直に答えた。 (…仕方ないで御座るな…)「分かったで御座る」 …十七星がまた一人集った。神の定めし運命を壊す鍵と歯車。 それらはまだ、止まったままにある…            Fin 説明 剣技の方は分かると思いますが、魔法と人物の紹介を。 ブレイカー・フィールド ほぼ完璧な防護結界です。難しく言いますと任意の場所を空間断裂により隔離し、 内部に結界を張って全ての攻撃を受けとめます。 1:ヴォイス 謎の青年です。デスとも関係も不明です。 2:デス 簡略化されてますがデス・オーナーと言います。謎の格闘家ですが戦ってませんね。 ジュリアスの仲間だけど、戦闘能力は不明です。 3:ジュリアス 本名ジュリアス・アフレアと言います。書いてある通り大剣の使い手です。 かなり高名な魔術師なのですが、今回は剣技のみで戦いました。