”破壊が無ければ再生は無い 生命の循環の永遠の形 真実の種から産まれた木”

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獅子と水がめ(童話)
 えん E-MAILWEB  - 07/4/11(水) 18:44 -

引用なし
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   *この作品は私が6年ぐらい前に書いたものです*

獅子と水がめ

 ご主人が白い水がめを買ってきたのは、もう随分前の事でした。
水がめは始めは家の中で大事に使われていましたが、やがて使い古され、汚くなってくると、水がめは庭におかれ水撒き用に使われることになりました。
 やがてその水を飲みに、ノラ猫がやってくるようになりました。
その猫はちぢれた銀色の毛としなやかな体つきをしていて、まるでライオンのようでしたので、庭の花たちや風は彼のことを「獅子」と呼ぶのでした。

 始め獅子は水がめのことを何とも思っていませんでしたが、水がめは彼のひとつひとつの素振りに恋をしてしまいました。それは獅子が水をのみ、のどを鳴らす姿や、安らかな寝顔、そして月夜の晩に背筋を凛としてじっと月を眺めているその横顔が美しかったからでした。

 月の夜でした。
獅子には悩みがありました。彼の悩みはこうでした。
「水がめよ、俺は他の猫の話を聞くにつけ、心配になるんだ。俺は誰からも愛されたことがない、他の猫のように愛し愛されたことがないんだ。」

 水がめはこの若い獅子の事を愛しく思いました。そして私はこんなにもあなたを好きなのだと伝えたくてたまりませんでした。
水がめは言いました。
「獅子さん、今日は月があんなにも明るく出ています。私をのぞいてごらんなさい。」
獅子はいぶかしみながらも水がめの中をのぞきました。そこには獅子の自分の顔が映っていました。それはとても美しく、りりしく見えました。獅子は自信を持ったようでした。

 やがて獅子は恋を知り、愛されました。

水がめは彼のことを思い続けました。

ですが、やがて獅子の恋にも終わりがやってきたのです。

「水がめさん、俺は振られてしまった。」
と、獅子は言いました。水がめはなんてひどいことをするんだろうと思いました。獅子は水を飲みました。
やがて獅子は一日中水がめの傍にいるようになりました。

 水がめはそれで充分でしたし、それで幸せでした。
たとえばその幸せが続かなくとも
水がめにとってその一瞬の幸せは永遠だったのです。

そして春が来て
夏が過ぎ
秋が訪れ
寒い冬になりました。

 獅子は言いました。
「それじゃあさよならだ。」
水がめは驚きました。
「俺は街へ行くんだ。だからさよならだ。」
と獅子はいいました。水がめはいいました。
「水はもういらないんですか。」
獅子はいいました。
「君は元々この庭の水がめだろ。俺は水たまりの雨水だって、小川のきらきら水だって、それに朝もやの残したつゆだって飲めるさ。」

水がめはさようなら、ありがとうと言いました。そして獅子は街へと走りさってゆきました。

その時です。
ピシリ、と音がしました。それは水がめの底にひとすじのひびが入った音でした。ひびはじんじんと痛みました。

 太陽が雲の切れ間から顔を出しました。そしてその光はきらきらと水面に輝くのでした。
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獅子と水がめ(童話) えん 07/4/11(水) 18:44

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