”破壊が無ければ再生は無い 生命の循環の永遠の形 真実の種から産まれた木”

MorningParkには大きな樹が生えていて、世界中の色とりどりの美しい花が咲き、あらゆる果物の実がなります。

このMorningParkの樹は、表現をするための掲示板です。どんな言葉でも、詩や小説、散文、イラストや音楽でもかまいません。あなたの思いを、届けてみませんか。
それはこの木を育む栄養になって、実をつけ、花を咲かせ、ここを訪れた旅人を癒します。

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向日葵の騎士 えん 12/1/22(日) 3:34
Re:向日葵の騎士 マリ 17/8/7(月) 18:24

向日葵の騎士
 えん E-MAILWEB  - 12/1/22(日) 3:34 -
向日葵の騎士

旅人は花咲き誇る春もじりじり暑い夏も美味しい収穫をお腹いっぱい頬張る秋も寒さに震え涙する冬もただ歩いていました。
季節は何回も繰り返し、悲しいことや楽しいことがありました。嬉しいことも苦しいこともありました。でもそのたびの日々の記憶は彼の中で宝石のように輝いています。
それは物語を創る為に生きる旅で、学ぶ旅で、届ける旅でした。旅で出会った人や景色や出来事を物語に昇華させて、それを必要な人に届けます。
お金は無くお腹はいつも空いていましたが、心はいつも幸せで、切なくて、胸いっぱいなのでした。それはあらゆる記憶の風景が、一枚の宝石で創った絵に、物語の美しい旋律になって、彼の心に流れ続けているからでした。

ある落日の時刻。赤く長い影を荒野に足長おじさんの幻のように伸ばして、旅人は吹きすさぶ冷たい風に、ぼろぼろの外套に包まり、飛ばぬように帽子を片手で押さえて、ある町へと辿り着きました。
それはモノクロの町でした。
家々は真四角に建てられ、ドアも窓も止められた、車のタイヤも真四角で、なによりそれは白か黒かで塗られているのです。
町にはどこにも人影がなく、迫り来る夜の冷たい匂いに腹を空かせ凍える旅人は、人を求めてその町を彷徨い続けました。
すると、町の中央の広場から、人々の喚声が聞こえてきます。
そこには、コロシアムがありました。
真四角に作られた闘技場の周りを囲むように、白い服を着た人々と黒い服を着た人々が、分かれて何かの試合を観戦しています。白の住人たちの中央には、王冠をつけた子供の白の女王が座り、黒の住人たちの中央にはこれまた子供の黒の王が座って、四角いオペラグラスで観戦です
旅人は人ごみを掻き分けその中を覗き込むと、そのコロシアムの舞台では、なんと色とりどりのぬいぐるみ達が、白旗と黒旗を掲げ、それぞれに白と黒の刻印を押されて殺し合いをしているではありませんか。
そこではふわふわのタオル生地で出来たファンシーなキリンやクマ、うさぎにかぶとむし、ふなや鯉、金魚にさめ、蛇にさる、バラとゆり、チューリップ、それこそさまざまな種類のぬいぐるみ達が、剣や斧やとげや牙などの物々しい武器を身につけて、目を怒らせて文字通り腹綿を飛び出させ、取れそうな手足を引きずり、糸を引きずらせながら、命がけで戦っています。

「一体これはなんですか?!」

旅人が聞くと、面倒くさそうにでっぷり太った腹だけは丸い男が、いかり肩のデザインの真四角の貫頭衣を左右に振りながら答えます。

「戦争さ。代理戦争だよ。自分たちが戦うと血が流れるだろう。だからぬいぐるみに戦わせるのさ。そうして決めるのだ。白の民と黒の民の間の面倒な揉め事を。収穫の取り分や、日当たりのいい場所、綺麗な水の使用権や、奴隷の割り振りやなんかを。」

それはどちらかの色のぬいぐるみが勝ち残るまで続けられるようでした。



彼は応援をする人たちに、物語を伝えようとしましたが、興奮のあまりに唾を吐きながら喚声を上げる人々は誰も、彼の話を聞くものはありませんでした。
そのモノクロの国の人々は、誰も物語を必要としていないのです。
やがて夜になって、試合が明日までの休憩になると、モノクロの人々はそれぞれ白や黒の家に帰っていきました。が、旅人はぼんやりとコロシアムの椅子に座り込んでいました。
闘技場では息絶えたぬいぐるみや、ボタンがちぎれ綿が頭から飛び出しうめき声を上げる死に掛けのぬいぐるみ達が、掃除係のモノクロの奴隷たちによって糸くずの一本まで残さず掻き集められ、火がつけられました。
すると様々な繊維の薬品のせいでしょうか、火は花火のように様々な色に移り変わり、水溜りの油の作る虹色のような、澱んだ火花を舞い上がらせます。それと共に闘技場は、観客席までいっぱいにまだ息のあるぬいぐるみたちの断末魔の叫びでいっぱいになりました。
旅人は、その残酷な花火の景色を、忘れないように凝視して心に刻むように、虚ろに見ています。
彼らの命の終わりを見届けたいと思ったのです。

と、どこかからすすり泣く声が聞こえます。
不思議に思って旅人が、その声をたどって闘技場の裏手にいくと、そこにはまだ戦える戦士たちを連れて牢屋へ入れる作業をしていた騎士の、白銀の鎧を着た女騎士がいました。
旅人が

「何故泣いているのですか?」

と声をかけると、騎士は答えます。

「私はぬいぐるみたちの牢屋番です。彼らは死ぬ為に創られ、戦い、死んでいきます。私は毎晩彼らが涙ながらに口にする最後の言葉を、牢屋番として耳にします。彼らはみんなもっと生きたかったといって死んでいきます。美味しいものが食べたかった、恋がしたかった、お洒落がしたかった、僕らはかりそめの命だから使われて終わりなのか。僕らの命に意味はいないのか、神よ。憎い、モノクロの民が憎い、殺したい、我々の苦しみを味合わせたい、そんな彼らの言葉を。だけど私には何も出来ないのです。ただ、泣くことだけしか。ところで、あなたは?」
「私は、旅人です。世界中を旅して、美しい景色に、生命に出会い、物語を創り、物語を育み、物語を届けます。そうして生きているのです。」

女騎士は首を傾げて興味深そうにそれを聞き終えると言いました。

「私にはほんの少しのお金しかありませんが、彼らに物語を話して聞かせてやってはくれませんか。幸せになれる物語を、せめて死に行く彼らの為に。」
「やってみましょう。」

彼は言って、金色のコインを一枚受け取ると、彼は物語を語り始めました。



それは風船につけられた向日葵の種の話でした。
海辺の町の結婚式の始まりに放たれた、花の種のついたその風船は、北の雪寒い山の崖の上に落ちました。
太陽や雪の精霊たちは、その種を可哀想に思い、小さな陽だまりを作ってそれを大切にしましたが、流れてくる寒さはどうすることも出来ません。
向日葵は芽を出すことは出来ましたが、花をつける前に死んでしまいました。
けれど芽は話しました。小さな雪の結晶たちに、彼が芽として生まれてくる前に、花の赤ん坊の国で聞いた自分と花の世界のことを。いかに向日葵という花が、立ったクマ程に背が高くて、葉は大人の手のひらより大きくて、花は、燃える火のように真っ黄色で、いつも太陽の方を向き、力強く優しく、その太陽にそっくりに、とても美しい花なのだと。
他にも自分の知っている色とりどりの花のことを、芽は彼らに話しました。
雪の結晶たちは、暗い大地に落ちてはそのまま溶けて死んでいきますが、その向日葵の芽のおかげで素敵な夢を見ました。一面の花畑と、風に揺れる大きな向日葵を。
そうして彼らは、共に夢を見ながら死んで、天の国で雪の結晶たちは清らかな水に、小川に、向日葵の芽はその清水をいっぱいに吸って力強く優しく咲く黄色い向日葵になりました



旅人が話し終えると、最初興味がなさそうにそっぽを向いていたぬいぐるみ達も、自分たちの境遇を思って抱き合って泣いているようでした。そこにはただ生きたいという思いだけが満ちています。
白銀の騎士は言いました。

「この国の人たちは、色を捨てたの。色物はスタイリッシュじゃないって、白や黒の服ばかり着て、物事は白黒はっきりさせるべきで、好きなら好き嫌いなら嫌い、あいまいなのはだめだって、なんでも勝ち負けにして、シンプルで早くて便利でみんな一緒が良いって、形まで統一しちゃった。個性なんて良くわからない複雑な気持ちは子供のうちにぬきとって焼き捨てるんだって、13歳の誕生日になったら、心の色を全部抽出して、それをぬいぐるみに縫い込んで、殺し合いをさせた。だから私も小さなころに色を奪われて、白か黒かを選択させられちゃった。好きな方を。だから忘れちゃったの。あいまいな気持ち。もやもやした気持ち。生きる意味を探し続けること。
だけどね、死んでいく彼らを見ていると、なぜだか涙が止まらなくなるの。
そうしてあなたの話で思い出したわ。
あなたの物語で、私は心の中に、向日葵の黄色い花を持った。それは私に小さいころ遊んだ色とりどりの花の咲く野原を思い起こさせる。花冠を作って遊んだ、まだみんなが白でも黒でもない、ありのままで美しく輝いていられた日々のこと
向日葵は、私に命をくれる。私には出来ることがある、私にはやらなければならないことがあるって、教えてくれた。」

女騎士は、旅人に向き直って言います。

「さあ旅人さん、ここにいては危険だわ。すぐに町を出てください。」

旅人は問います。

「どうして、何をするつもりです。」
「私のしなければならないことよ。」
「私もここにいます。」
「だめ。」

女騎士は言います。

「あなたにはあなたの為すべきことがあるわ。あなたの目的地はここじゃない。あなたの為すべきことは、また別の誰かに真実の物語を届けること、でしょう?」

旅人は頬を涙が流れるのを止められずに、後ろを向きます。そして言いました。

「君、名前は?」
「この町の人間は、みんな番号しか持たないわ。だから私に名前は無いの。でも、そうね……、向日葵の騎士と呼んで貰えるかしら。」

旅人はそのまま頷くとそこを立ち去ります。
ずっと後ろで重い鉄の扉の開く音がします。
騎士は言います。

「さあぬいぐるみさん達。もうあなた達は自由よ!」



数年後、夏の始まりの季節に、旅人がもう一度そこを訪れると、町は廃墟となって何も無く誰もいませんでした。
ただ色とりどりの野花がそこかしこに美しい花畑を作っていました。
大きな月が出ていました。
旅人は花畑の中央に、ひときわ大きく咲き誇る、一輪の太陽のような向日葵を見つけるとつぶやきます。

「ただいま。」

そうして隣に座って、一緒に、ただ静かに風に揺れていました。

   終わり

虎屋へ 2012年1月18日 えん

引用なし

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Re:向日葵の騎士
 マリ WEB  - 17/8/7(月) 18:24 -
▼えんさん:
>向日葵の騎士
>
>旅人は花咲き誇る春もじりじり暑い夏も美味しい収穫をお腹いっぱい頬張る秋も寒さに震え涙する冬もただ歩いていました。
>季節は何回も繰り返し、悲しいことや楽しいことがありました。嬉しいことも苦しいこともありました。でもそのたびの日々の記憶は彼の中で宝石のように輝いています。
>それは物語を創る為に生きる旅で、学ぶ旅で、届ける旅でした。旅で出会った人や景色や出来事を物語に昇華させて、それを必要な人に届けます。
>お金は無くお腹はいつも空いていましたが、心はいつも幸せで、切なくて、胸いっぱいなのでした。それはあらゆる記憶の風景が、一枚の宝石で創った絵に、物語の美しい旋律になって、彼の心に流れ続けているからでした。
>
>ある落日の時刻。赤く長い影を荒野に足長おじさんの幻のように伸ばして、旅人は吹きすさぶ冷たい風に、ぼろぼろの外套に包まり、飛ばぬように帽子を片手で押さえて、ある町へと辿り着きました。
>それはモノクロの町でした。
>家々は真四角に建てられ、ドアも窓も止められた、車のタイヤも真四角で、なによりそれは白か黒かで塗られているのです。
>町にはどこにも人影がなく、迫り来る夜の冷たい匂いに腹を空かせ凍える旅人は、人を求めてその町を彷徨い続けました。
>すると、町の中央の広場から、人々の喚声が聞こえてきます。
>そこには、コロシアムがありました。
>真四角に作られた闘技場の周りを囲むように、白い服を着た人々と黒い服を着た人々が、分かれて何かの試合を観戦しています。白の住人たちの中央には、王冠をつけた子供の白の女王が座り、黒の住人たちの中央にはこれまた子供の黒の王が座って、四角いオペラグラスで観戦です
>旅人は人ごみを掻き分けその中を覗き込むと、そのコロシアムの舞台では、なんと色とりどりのぬいぐるみ達が、白旗と黒旗を掲げ、それぞれに白と黒の刻印を押されて殺し合いをしているではありませんか。
>そこではふわふわのタオル生地で出来たファンシーなキリンやクマ、うさぎにかぶとむし、ふなや鯉、金魚にさめ、蛇にさる、バラとゆり、チューリップ、それこそさまざまな種類のぬいぐるみ達が、剣や斧やとげや牙などの物々しい武器を身につけて、目を怒らせて文字通り腹綿を飛び出させ、取れそうな手足を引きずり、糸を引きずらせながら、命がけで戦っています。
>
>「一体これはなんですか?!」
>
>旅人が聞くと、面倒くさそうにでっぷり太った腹だけは丸い男が、いかり肩のデザインの真四角の貫頭衣を左右に振りながら答えます。
>
>「戦争さ。代理戦争だよ。自分たちが戦うと血が流れるだろう。だからぬいぐるみに戦わせるのさ。そうして決めるのだ。白の民と黒の民の間の面倒な揉め事を。収穫の取り分や、日当たりのいい場所、綺麗な水の使用権や、奴隷の割り振りやなんかを。」
>
>それはどちらかの色のぬいぐるみが勝ち残るまで続けられるようでした。
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>◆
>
>彼は応援をする人たちに、物語を伝えようとしましたが、興奮のあまりに唾を吐きながら喚声を上げる人々は誰も、彼の話を聞くものはありませんでした。
>そのモノクロの国の人々は、誰も物語を必要としていないのです。
>やがて夜になって、試合が明日までの休憩になると、モノクロの人々はそれぞれ白や黒の家に帰っていきました。が、旅人はぼんやりとコロシアムの椅子に座り込んでいました。
>闘技場では息絶えたぬいぐるみや、ボタンがちぎれ綿が頭から飛び出しうめき声を上げる死に掛けのぬいぐるみ達が、掃除係のモノクロの奴隷たちによって糸くずの一本まで残さず掻き集められ、火がつけられました。
>すると様々な繊維の薬品のせいでしょうか、火は花火のように様々な色に移り変わり、水溜りの油の作る虹色のような、澱んだ火花を舞い上がらせます。それと共に闘技場は、観客席までいっぱいにまだ息のあるぬいぐるみたちの断末魔の叫びでいっぱいになりました。
>旅人は、その残酷な花火の景色を、忘れないように凝視して心に刻むように、虚ろに見ています。
>彼らの命の終わりを見届けたいと思ったのです。
>
>と、どこかからすすり泣く声が聞こえます。
>不思議に思って旅人が、その声をたどって闘技場の裏手にいくと、そこにはまだ戦える戦士たちを連れて牢屋へ入れる作業をしていた騎士の、白銀の鎧を着た女騎士がいました。
>旅人が
>
>「何故泣いているのですか?」
>
>と声をかけると、騎士は答えます。
>
>「私はぬいぐるみたちの牢屋番です。彼らは死ぬ為に創られ、戦い、死んでいきます。私は毎晩彼らが涙ながらに口にする最後の言葉を、牢屋番として耳にします。彼らはみんなもっと生きたかったといって死んでいきます。美味しいものが食べたかった、恋がしたかった、お洒落がしたかった、僕らはかりそめの命だから使われて終わりなのか。僕らの命に意味はいないのか、神よ。憎い、モノクロの民が憎い、殺したい、我々の苦しみを味合わせたい、そんな彼らの言葉を。だけど私には何も出来ないのです。ただ、泣くことだけしか。ところで、あなたは?」
>「私は、旅人です。世界中を旅して、美しい景色に、生命に出会い、物語を創り、物語を育み、物語を届けます。そうして生きているのです。」
>
>女騎士は首を傾げて興味深そうにそれを聞き終えると言いました。
>
>「私にはほんの少しのお金しかありませんが、彼らに物語を話して聞かせてやってはくれませんか。幸せになれる物語を、せめて死に行く彼らの為に。」
>「やってみましょう。」
>
>彼は言って、金色のコインを一枚受け取ると、彼は物語を語り始めました。
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>◆
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>それは風船につけられた向日葵の種の話でした。
>海辺の町の結婚式の始まりに放たれた、花の種のついたその風船は、北の雪寒い山の崖の上に落ちました。
>太陽や雪の精霊たちは、その種を可哀想に思い、小さな陽だまりを作ってそれを大切にしましたが、流れてくる寒さはどうすることも出来ません。
>向日葵は芽を出すことは出来ましたが、花をつける前に死んでしまいました。
>けれど芽は話しました。小さな雪の結晶たちに、彼が芽として生まれてくる前に、花の赤ん坊の国で聞いた自分と花の世界のことを。いかに向日葵という花が、立ったクマ程に背が高くて、葉は大人の手のひらより大きくて、花は、燃える火のように真っ黄色で、いつも太陽の方を向き、力強く優しく、その太陽にそっくりに、とても美しい花なのだと。
>他にも自分の知っている色とりどりの花のことを、芽は彼らに話しました。
>雪の結晶たちは、暗い大地に落ちてはそのまま溶けて死んでいきますが、その向日葵の芽のおかげで素敵な夢を見ました。一面の花畑と、風に揺れる大きな向日葵を。
>そうして彼らは、共に夢を見ながら死んで、天の国で雪の結晶たちは清らかな水に、小川に、向日葵の芽はその清水をいっぱいに吸って力強く優しく咲く黄色い向日葵になりました
>
>◆
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>旅人が話し終えると、最初興味がなさそうにそっぽを向いていたぬいぐるみ達も、自分たちの境遇を思って抱き合って泣いているようでした。そこにはただ生きたいという思いだけが満ちています。
>白銀の騎士は言いました。
>
>「この国の人たちは、色を捨てたの。色物はスタイリッシュじゃないって、白や黒の服ばかり着て、物事は白黒はっきりさせるべきで、好きなら好き嫌いなら嫌い、あいまいなのはだめだって、なんでも勝ち負けにして、シンプルで早くて便利でみんな一緒が良いって、形まで統一しちゃった。個性なんて良くわからない複雑な気持ちは子供のうちにぬきとって焼き捨てるんだって、13歳の誕生日になったら、心の色を全部抽出して、それをぬいぐるみに縫い込んで、殺し合いをさせた。だから私も小さなころに色を奪われて、白か黒かを選択させられちゃった。好きな方を。だから忘れちゃったの。あいまいな気持ち。もやもやした気持ち。生きる意味を探し続けること。
>だけどね、死んでいく彼らを見ていると、なぜだか涙が止まらなくなるの。
>そうしてあなたの話で思い出したわ。
>あなたの物語で、私は心の中に、向日葵の黄色い花を持った。それは私に小さいころ遊んだ色とりどりの花の咲く野原を思い起こさせる。花冠を作って遊んだ、まだみんなが白でも黒でもない、ありのままで美しく輝いていられた日々のこと
>向日葵は、私に命をくれる。私には出来ることがある、私にはやらなければならないことがあるって、教えてくれた。」
>
>女騎士は、旅人に向き直って言います。
>
>「さあ旅人さん、ここにいては危険だわ。すぐに町を出てください。」
>
>旅人は問います。
>
>「どうして、何をするつもりです。」
>「私のしなければならないことよ。」
>「私もここにいます。」
>「だめ。」
>
>女騎士は言います。
>
>「あなたにはあなたの為すべきことがあるわ。あなたの目的地はここじゃない。あなたの為すべきことは、また別の誰かに真実の物語を届けること、でしょう?」
>
>旅人は頬を涙が流れるのを止められずに、後ろを向きます。そして言いました。
>
>「君、名前は?」
>「この町の人間は、みんな番号しか持たないわ。だから私に名前は無いの。でも、そうね……、向日葵の騎士と呼んで貰えるかしら。」
>
>旅人はそのまま頷くとそこを立ち去ります。
>ずっと後ろで重い鉄の扉の開く音がします。
>騎士は言います。
>
>「さあぬいぐるみさん達。もうあなた達は自由よ!」
>
>◆
>
>数年後、夏の始まりの季節に、旅人がもう一度そこを訪れると、町は廃墟となって何も無く誰もいませんでした。
>ただ色とりどりの野花がそこかしこに美しい花畑を作っていました。
>大きな月が出ていました。
>旅人は花畑の中央に、ひときわ大きく咲き誇る、一輪の太陽のような向日葵を見つけるとつぶやきます。
>
>「ただいま。」
>
>そうして隣に座って、一緒に、ただ静かに風に揺れていました。
>
>   終わり
>
>虎屋へ 2012年1月18日 えん


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